書評『ちどり亭にようこそ ~京都の小さなお弁当屋さん~』

小説の情報

ちどり亭にようこそ ~京都の小さなお弁当屋さん~
著者: 十三 湊
文庫: メディアワークス文庫

ちどり亭にようこそ ~京都の小さなお弁当屋さん~ (メディアワークス文庫)

ちどり亭にようこそ ~京都の小さなお弁当屋さん~ (メディアワークス文庫)

書評


 京都にこじんまりと建つ、仕出し*1屋の『ちどり亭』。そこのオーナーである花柚さんは、旧家のお嬢様であった。

 花嫁修行で始めたお料理だったが、兄の突然の失踪によりその道は大きく変わってしまうことに……。
 彼女は家を継続させるために婿をとらなければならなくなり、許婚との婚約も解消され、毎週お見合いをさせられる日々であった。

 僕は仕出し屋のアルバイトの傍、花柚さんに料理を教わっているただの大学生。その仕出し屋には個性豊かな人たちが集まり、ハートフルな物語が紡がれていく。
 そんなちどり亭を舞台にした、人と人の繋がりを描いた物語。

 この本は各章ごとにお話としてまとまっており、1つ1つの章がまとまって物語が成り立っている印象であった。この本の構成と登場人物の性格の良さで、ライトな小説という印象。サクサク読み進められる小説である上に、しっかりと再読する人に向けて、気づき(そういうことだったのかと思わせる部分)を与える記述が散見でき、丁寧に書かれているのが伝わってきた。
 また花柚さんの人柄を人物との掛け合いを使うことで、堅い文章になりすぎず尚且つ感情が伝わるような臨場感を見事に表現できていると感じた。
 他にも、会話表現を取り入れることにより物語のテンポを良くしているのがわかる。

 具体的に内容の方にも触れていこう。
 この小説は仕出し屋の設定からもわかるように、食べ物(とりわけ料理)について扱っている小説である。そのため、小説中に調理をしている描写で不意に出てくる豆知識のようなものが純粋に面白かった。特に、蜂蜜を混ぜてご飯を炊くと保水効果が期待できることは初めて聞いたのもあって楽しい。試してみようかなw(読書を通じて知識を吸収できるのってなんかワクワクしない?)。

 花柚さんが「将来の旦那さまのために」料理を習いはじめたのは小学四年生の春。
 九歳だった彼女は先生の教えにしたがい、「お料理練習帖」を作った。
 料理の写真を貼ったり、絵を描いたり。レシピを書き写したり、作るときのコツを書きとめたり。
 そんな練習を記録したノートは、すでに九十六冊め。十五年の間に訳あって「お料理練習帖」は「お弁当練習帖」に変わり、二十四歳になる花柚さんは今も精力的にノートに記録を残している(※「あれ、『旦那さま』はどうした?」と訊いてはいけない)。

 この文は物語の最初に書かれている部分である。重い小説にならないように、コミカルな表現を取り入れているが、それだけではない。この文章には、いろいろな役割があったのである。例えば、「」(カギ括弧)が多用されているが、このカギ括弧はなんのためにつけられているのかを考えてみると、後々物語でキーとなるものにつけられているのがわかる。また、これらのキーワードは後々の物語展開を知っている再読者にとってはニヤニヤしながら読めるし、1周目の人もこの部分が伏線になっているなんて思いもしなかっただろう。

 ひとり暮らしのぼくにとって、料理は自分のためにするものだったし、十九歳の大学生にとってはそれが当たり前なのだと思う。
「お弁当練習帖」というタグをつけた画像のうちの五十四番め、非公開になっているオムライスは、そんなぼくが初めて他の誰かのために作った弁当なのだった。

 ここの部分は、僕(彗太)が失恋した菜月を癒すためにオムライスを作ったエピソードのことを指しているものだと考えられる。わざわざ、十九歳という描写を書いて、物語中で使われているのと同じ表記の大学○年生と違う表現を用いているのは、1周目で気づかせるないで再読した際に楽しめるよう配慮したためであると推測できる。


 他にも、季節の移り変わりを二十四節気や七十二候で表すことで、間接的に花柚さんの家柄や性格のようなものをうまく表現していたり、2人の会話を第三者が干渉することで会話の空気感を読者に伝える技術もすごいと感じた。

 物語のどんでん返しを語るのは特大のネタバレになるのであまり深くは突っ込めないが、ほっこりする結末であるため、バッドエンドを嫌う読者にも良い読後感が得られる。
 恋×料理の物語ってありそうでなかったよね。花嫁修行とかで料理の話題が出るのに不思議!! (^^)





ちどり亭にようこそ 

最後まで見ていただきありがとうございます。また別の記事でお会いできることを祈っております。



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*1:お客さんからの注文に応じて食事を用意し、配達する仕事