書評『賭博師は祈らない』

ラノべの情報

賭博師は祈らない
著者: 周藤 蓮
イラスト: ニリツ
レーベル: 電撃文庫

賭博師は祈らない (電撃文庫)

賭博師は祈らない (電撃文庫)

書評


 賭博師が守らなければいけない三つのこと。
一つには、負けない。二つには、勝たない。三つには、——

 そんな教えを受けた主人公のラルザスは、ある日賭場で勝ちすぎてしまう。このまま利益を持ち帰って馴染みの賭場に睨まれることを危惧したラルザスは賭場の商品を買うことで賭場に利益を還元することにし、仕方なく奴隷を買ったのだった。

 翌朝、連れてこられた奴隷の少女リーラはラザルスに奴隷として買われたためか酷く怯えていた。ラルザスは、喉を焼かれ声を失い、痛みで躾けられた少女を『どうでもいい』と言って、放り出すわけにもいかずメイドとして雇う事になる。
 リーラはラルザスを信頼するようになっていき、ラルザスはリーラを『どうでもいい』存在と考えられなくなっていく……。

 そんな二人を待ち受けていたのは悲劇的な運命だった。ラルザスはリーラを連れ戻すため、文字通り人生を賭けた大勝負に挑む……!

 最後のところでソブリン金貨を取り出して投げるシーンがある。そのシーンで、コインの両面にはエリザベス王妃が刻印されていることが書かれている。

 訝しげにリーラが金貨を手の中でいじる気配がする。彼女は指先で重たい金貨を摘んで、表と裏を眺め、
「…………!」
 両面に描かれたエリザベス女王の顔に目を見開いた。

 すなわち、両面が表のコインというわけである。
 実はこのコインはここが初登場ではなく、何度も物語中で登場していると考えられる。最初にこのコインが書かれている描写は、ラルザスが賭場で勝ちすぎてしまい賭場に目をつけられないように利益を還元するかどうかを決めるシーンであると推察できる。

 開いた手の中では、エリザベス女王が微笑んでいた。

 1周目の読書の時はリアリティを演出するための描写かなと思ってそのままスルーしてたが、ここら辺のコインの描写は少し細かく書かれていますね。後から考えるとここの場面、主人公が100%の確率で表が出る金貨を投げていたと考えるととてもしっくりくるんですよね。
 主人公のラルザスを育ててくれた賭博師の男は、賭場とのしがらみを増やし過ぎてしまったために亡くなっていて、このことを事実として知っているラルザスにとって賭場との揉め事はできるだけ避けたいと思っているはずですよね。
 このことから、ラルザスの取るべき行動がすでに決まっていて、尚且つそれを口に出したくない場合にコインが投げられていると考えられるんですよ。このシーンだと、賭場に利益を還元して揉め事を回避したいという気持ちと、押しつけがましい(わざとらしい)還元は避けたいという気持ちからコインを投げているんだと結論づけることができそう。

 他にもリーラをメイドとして雇うか決める時もコインを投げている。ラルザスは表しか出ないことがわかっている状況で、「表が出たら雇う、裏が出たら出て行け」といっている。最初からイエスの答えしかなかったコインを振った時には雇うことが決定していたのである。コインの表が出た時のラルザスの心理描写が全くない点からも彼はやはり結果がどうなるかを知っていたのではないかと考えられるわけだ。

 この物語の主軸のひとつは、リーラとラルザスの距離が徐々に縮まっていくところだろう。最初にリーラがラルザスを見た時、無表情の奥に怯えが浮かんでいた描写がある。

 ラルザスが呼びかけてみると、その少女の表情は変化しなかったが、その瞳に微かに怯えが浮かんだ。

奴隷として売られ、連れてこられたという状況を考えればそういう表情にもなるだろう。
 そんなリーラが最後には笑顔を浮かべるのだ……!
 この変化の過程をじっくり味わっていくのが本作品の醍醐味といえる。急に親密になる小説は現実味がかけるため感情移入しにくいが、この小説は徐々に信頼関係を築いていく様子が行動から読み取れるので、楽しむことができた。

 本作のもう一つの見所は何と言ってもギャンブルだろう。賭博をテーマにした小説だから、そこの部分には力を入れて書いたのであろう、ギャンブルをしているときの描写やどうやってゲームを有利に進めるかといった部分が非常に練られていてページをめくる手が止まらないくらい面白かった。最強の賭博師相手にどうやって勝つのか未読の方は是非読んでみてください。

 電撃小説大賞金賞受賞をしている作品と言われて納得のクオリティでした。彼らの物語に刮目せよ!!




賭博師は祈らない 

最後まで見ていただきありがとうございます。また別の記事でお会いできることを祈っております。



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