書評『読者と主人公と二人のこれから』

ラノべの情報

読者と主人公と二人のこれから
著者: 岬 鷺宮
イラスト: Hiten
レーベル: 電撃文庫

読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

読者と主人公と二人のこれから (電撃文庫)

書評


 自分と同じことを考えている「誰か」が、ページの向こうにいる——
 本屋で手に取った小説『十四歳』に登場する主人公"トキコ"は、俺にとって灰色の日常を支えてくれる存在だった。

 これまでと何ら変わらない日々をただ送るだけ……。そんな高校生活になるはずだった。だが彼女は俺の前に現れた。新学年のホームルームでの自己紹介、前に立っているのは間違いない……、小説『十四歳』の主人公"トキコ"だ。トキコが目の前にいる……!

 『十四歳』の中の主人公"トキコ"と同級生の柊時子の間で奇妙に絡まってゆく想い。その想いは次第に大きくなっていく——

 本のあとがきには、

「とにかく、自分が読みたい作品を書いてみる」

と書かれている。
 作家さんが好きなものを題材に選んでいる作品が面白くないはずがない。

 僕の個人的な体験から言わせていただくと、自分の好きなものについて思いっきり書いている作品って、そのテーマについての知識が豊富にあるため、自然と筆が進む感覚(変に悩んで手が止まることが少なくなる感覚)が多分にある。そういうときは、文章の表現に悩む頻度が減り、物語をより面白く練る方に頭を使うことができるようになる。

 文章中の表現にも注目してほしい。

そう思った途端、なぜか——柊の「生身」みたいなものを強く感じた。

 この一文では生身というワードが協調して書かれている。後々のストーリー展開を考えると、この単語は重要な意味を持っていると言えるだろう。たったの1単語であるがそこをこだわていることから、この作品が非常に細かく作りこまれているのがわかる。

 青春小説は再読しても得られるカタルシスは少ない場合が多い。それは、物語のストーリーが1周目でわかってしまい1周目で得られていたエンターテイメント部分が2周目には少なくなってしまうためだ。よくネタバレ厳禁と言われているのもエンターテイメント性を読む前に失わせないようにするためである。
 しかし今回の作品は、再読していてもつまらなくならないように工夫されている。

「『わたしは、知ることで、大切なものを独り占めにする』」

 柊は『十四歳』という小説中の言葉を引用して告白ともとれる言葉を発している。その少し後ろの行では、頬が少し赤くなっている描写がある。この場面において頬が赤いのは十中八九照れていることから来ているのは想像できる。この照れの原因は2つ考えられる。1つは小説『十四歳』のヒロインのモデルとなっている柊が作中の言葉を引用して話したことによって恥ずかしいという感情になったと考えるもので、もう1つは婉曲的ではあるが告白のようなセリフを言っていることから、気持ちを伝えて狼狽していると考えるものである。
 前後の会話を拾ってみると、大切なものが細野くん(俺)を指していることがわかる。
 正直どちらともとれるような部分を深く読むことで、こういう意図の発言だったのかという発見ができる点では再読にも向いている小説と言えるだろう。

 僕がこの小説を手に取ったのは表紙がキラキラしてたから(表紙があまりにもきれいでつい衝動的に……(-_-;))。大学に入学して、教科書を買うついでに息抜きがどうしても欲しくて手に取った。今回ブログで紹介するにあたり二年ぶりに再読したが、控えめに言っても最高な作品ですね!
 
 この小説にはちょくちょく十四歳という小説からの引用が挟まっている。しかし僕が調べた限りでは、その元となっている小説が見つからなかった。あくまで登場人物の一人である柊時子の姉が書いたものであるという設定があることを考えると、実在しないのだろうか? 誰か知っていたら教えて欲しい。

 作品に詰め込まれた作家さんの「好き」を存分に味わってみてほしい。




読者と主人公と二人のこれから 

最後まで見ていただきありがとうございます。また別の記事でお会いできることを祈っております。



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